「質的データ」と「質的分析で扱うデータ」に関して語弊がありそうなので整理してみます。
実験法で扱うデータ
実験法で扱うデータは大別すると「定量的データ」と「定性的データ」に分けることができます。
「定量的データ」
まず「定量的データ」(量的データ)についてです。定量的データとは「数」を基礎として変数を測定する際に扱うデータを指します。これには間隔尺度と比例尺度が含まれます。
間隔尺度とは、メモリが等間隔になっている尺度のことを指します。例えば温度の目盛がいい例です。この尺度では値の間の比には意味がありません。つまり温度が◯%上昇したとは言わず、あくまでも◯度から◯度には◯度の差があるとしか言えないわけです。すなわち、間隔尺度は足し算と引き算しかできないデータなわけです。
比例尺度とは「0(ゼロ)」が定まっていて(原点が定まっていて)、間隔や比率にも意味があるものです。例えば身長や体重なんかがそうです。これはAくんの身長とBくんの身長とに◯cmの差があるとも言えますし、Aくんの身長の伸び率は昨年から見て◯%上昇しているとも言えます。この意味で比例尺度は四則演算全てができるデータなわけです。
このように、定量的データは四則演算のいずれかができる(しても意味がある)という特徴を持ちます。
「定性的データ」
一方で「定性的データ」(質的データ)というものも存在します。「定性的データ」とは経験に伴う解釈や意味を重視するデータです。これには名義尺度と順序尺度が含まれます。
名義尺度とは、単に分類のために割り当てた値です。サッカー選手の背番号なんかがこれにあたります。この値は等しいか異なるかでしか比較できません。順序付けや四則演算はできません(ダミー変数を用いた順序付けは例外)。
順序尺度とは、対象に割り当てられた値が大きいか小さいかで順番付けができる値のことを指します。例えばかけっこでAくんが1位、Bくんが2位、Cくんが3位になったとします。Aくんは9秒、Bくんは12秒、Cくんが15秒でゴールした場合、9秒でゴールしたAくんを1位とし、そこから遅い順に2,3と値をつけたわけです。この意味において、値は等しいのか、大きいのか、小さいのか(この例の場合速いか遅いかといったほうがわかりやすいかもしれません)について述べることにしか意味をなしません。
このように、定性的データは定量的データに対して四則演算ができない(というかしても意味が無い)という特徴を持ちます。
整理すると図にまとめられるでしょう。
注意しておきたいことばの使い分け
ここで注意しておきたいのは、定性的データの別名である「質的データ」ということばと「質的分析(観察法)で扱われるデータ」の呼称で語弊があるということです。確かに、「心理学研究法入門」(アン・サール,2005)にもあるように、質的データを「質的分析で扱うデータ」として呼称しているものもあります。しかし、「定性的データ」のことを「質的データ」と呼ぶ場合、これは名義尺度と順序尺度を指し、故に数値化を行なっているということを忘れてはならないでしょう。数値化を行うことは「質的分析で扱うデータ」では行いません。厚い記述・音声・映像などの観察記録というデータそのものに意味を見出すからです。
こうしたことばを用いる際に気をつけるべきは、自分がどちらのデータを扱っているか充分に把握することでしょう。もし心理学的な研究を行う際は、下手な語弊を招かないためにも「定量的データ」と「定性的データ」ということばを用い、「質的データ」は「質的分析で扱うデータ」を指すために用いるなどの使いわけをするべきだと思います。そうすれば論文もreader freeになるとおもいます。
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