研究法を大別すると
およそヒトの心理(カタカナ表記のときは生物学上の意味での「人」です)に関わる研究において、その研究方法を大別すると観察法と実験法にわけることができます。
観察法
観察法とは読んで字の如く、ある環境下(条件下)にある対象の状態をありのままに観察・記述していくことを指します。観察する際は、観察者がなるべく対象に関与しないようにし、対象が自然な状態で振舞うこと、そして普段と変わらない行動をしていることが理想とされます(観察者が来たから態度が変わったしまうようでは、普段の行動とはいえませんから)。
観察法の意義
観察法では、一般の人が知り得ないような特殊事例や、比較的事例の少ない行動を行うヒト・民族・集団などを研究します。その意義は、世間的に認知されていないような事例を数多く提供し、知識・知見の幅を広くすることにあります。珍しいもの・珍しいことに関する知識は、今後の私たちの世界に対する知見をより広く・深くしてくれるからです。
観察法で扱うデータ
観察法で扱うデータは、録音した音声・録画した動画・インタビュー・発話を記述したプロトコルデータです。つまり、証拠として数値を扱うよりも、ありのままを見せてしまいましょうという目的のもと、データ採取を行います。インタビューの方式の中には、構造化・半構造化・非構造化などの尺度もありますが、これは後々勉強すればいいかと思います。
観察法の例
例を出してみましょう。例えば暴走族の観察です。暴走族は世間的にみて比較的マイノリティな集団であると言えるでしょう。しかし、その集団の中には我々が知り得ないシキタリや取り決めが存在し、彼・彼女らの目的や生活意義などは私達が知り得ないものであることが多く、知識の幅を広げてくれます。なんだか偉そうな言い方になってしまいましたが、研究者はただただ知的好奇心に従って研究することが多いので、必ずしも社会的貢献をしなくたっていいわけです。
ただ、こうしたマイノリティの集団を研究した中でも社会的貢献をしている研究があります。その中でも例えば、「暴走族のエスノグラフィー」(佐藤, 1984)や「スリランカの悪魔祓い」(上田, 2010)などは楽しんで読むことができると思います。研究法に関しては「フィールドワークの技法」(佐藤, 2002)をおすすめします。
このように、文化人類学や質的研究といわれるような研究は「観察法」を用いているといって良いでしょう。
実験法
私たちの生活というものは、いつも多くの事柄が同時に多発し、それらが複雑にからみ合って一つの世界観を生み出しています。そしてその世界の感じ方は人それぞれ様々です(主観的)。例えば、ある人に対して「うわ!あの人かっこいい(/かわいい)!」と言った人がいるとします。その「かっこいい!」と言った人は、その人の主観によって他人を見て、そしてその他人に対する感想を主観でのべているわけです。言い換えれば、「え、別にそうでも無いじゃん!」って横から言う人がいてもいいわけです。
これに対し、より客観的な事実を発見しようという試みが実験法と言えるでしょう。 上の例えを使えば、「あの人の目の大きさは縦6mm、横8mmだ」といえば、これは客観的といえるでしょう。「誰が、いつやっても、同じ方法を用いれば同じ結果が出る」という尺度を用いているからです。
こうした客観的な事実をヒトの中に見出すための方法が「実験法」です。先述の「観察法」は、いつやっても同じような結果が出るとは限りません。もしかすると、暴走族のシキタリは時間の流れとともに変化していくかもしれないからです。
客観的な事実を提示することは私達人間が生活をする上で非常に有意義な知識を与えてくれます。すべての人間にとって同じような指標があれば、それに則るだけですべての人間が同じ結果を生み出すわけですから。主観的にではなく客観的なデータで説明を求められることは、現代社会では多いので、意義は充分に実感しているといっていいとおもいます。
ヒトに関して、普遍的で客観的なデータを示すこと(一般化の法則)ができれば、これはヒトというものに対してより深い理解ができたことになります。およそ実証的心理学、生物学、脳科学など、ヒトについて客観的に示そうとする分野で実験法は採用されます。
実験法で扱うデータ
これについては別エントリーの「データの種類」をご覧ください。
実験法の例
実験にはフィールド実験と実験室実験があります。今回は実験室実験に注目して例を述べます。
実験の最大の目的は、何が(どの変数が)今観察している状況を生み出しているかの原因を探ることです。すなわち、私達が経験していることがなぜ起こるのか、その要因を理解することが究極の目的なわけです。この際、ある事象を生み出しているであろう原因(変数)を仮定し、その仮定された原因がある事象にどのような影響を与えているか見てみよう!というのが実験です。往々にして、私達が経験可能な事象は様々な要因の複合体です。ですから、ある一つの要因だけに焦点を当てて、その要因だけが観察したい事象に影響を与えている様を見るのが実験室実験の特徴だといえるでしょう。
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例:
英語学習者が単語を効率的に学ぶこと(事象)には、目の前に具体物を見せる(変数)必要がある(仮定)。であるから、バナナ、ぶどう、りんごを持ってきて、それらがbanana、grape、appleだと覚える際に、具体物を見せる方が効率が良いのか、見せないほうが効率が良いのかを調べる計画を立てた。
対象は日本人英語学習者(中学生相当)とした。それらは具体物を見せる群20名(実験群)と具体物を見せないで文字だけで覚えさせる群20名(統制群)にわけられた。二つの群は別々の部屋に入り、その部屋内で、単語を覚える活動をした。
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大まかな過程をお伝えするために、大雑把な例になってしまいましたが、おおよそ上記のようなことを行うのが実験室実験といえるでしょう。(再度注意しておきますが、上記の例はあまりにも簡素化されたものであることを理解してください。)
整理すると以下のような図になるでしょうか。
以上
(このページは初学者に教える時に使うものです。ですから間違いがあってはいけません。筆者も間違いが内容に気を付けましたが、もし間違いやご指摘があればどうぞコメントください。真摯に訂正することを心がけます。)
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